1. アメリカのビジネス、日本のビジネス
アメリカ市場に商品を販売する時に知っておかなければならないビジネスに関する情報をここでまとめる。商習慣、販売方法、流通システム、回収方法が日本とは違うので、アメリカ市場戦略を立てる前に、まずアメリカビジネスの全体像を理解する。日本企業が、アメリカ市場においてビジネスを行う場合、言うまでも無くアメリカの法律、ビジネス・システムや商習慣に従がわねばならない。と言っても、あまり神経質になることはなく、ポイントを押さえておけば大丈夫である。それらは、日本よりもむしろ簡潔、合理的でわかりやすい。
(1) システム化されたアメリカのビジネス
はじめて海外市場へ販売する企業は、「アメリカの市場は複雑で、日本の中小企業には大変なのではないか」という「恐れ」を持つかもしれない。しかし、アメリカのビジネスのシステムは、日本のそれと比較しても難しくはなく、むしろシステム化していて分かりやすい。日本の商習慣には、長い歴史の中で生まれた非合理的なファジーな部分があるが、アメリカは歴史が短いので全て合理的にシステム化している。したがって、アメリカのビジネスの構造を理解すれば問題なくビジネスが行える。一度経験してしまえば、「これほどやりやすい市場はない!」というような感想を持つはずである。日本では、徐々に是正されているとは言え、取引条件が買取であっても、「商品交換」「値引き」「返品」などが普通に行なわれたり、「委託条件」があったり、支払いも100%支払いが行なわれないなど多くの点で海外から見ると「不思議な商習慣」がいまだ残っている。日本には、長い歴史の中で積み上げてきた習慣が多いが、新しい国家であるアメリカでは、仕組みはよりシンプルになっており、誰でもが容易にビジネスに参入できるようになっている。
(2) 商習慣の違い
アメリカ国内は、多くの人種で成り立っている国なので、アメリカ人も日本文化はよく知っている。「日本式」ビジネスを行なったとしても、さほど驚かれることはない。ただ、アメリカの商習慣、ビジネスのシステムを無視したりすれば、むろんビジネスは成り立たない。確かに違いはあるが、情報を集め、経験を積んでいけばすぐに慣れていく。アメリカと日本の「ビジネス習慣の違い」を整理しておこう。
① アポイント
得意先に商品を販売する時には、先方の店舗、オフィスに行き商談することは、日本でもアメリカでも同じことであるが、アメリカでは、アポイント無しに突然オフィスや店舗に立ち寄るということはあまりしない。基本的に前もってアポを電話かEメールでとってから訪問する。「近くまで来たので、ご挨拶だけでも」というのは日本的。また、「挨拶だけ」でアポを取るということもあまり歓迎されない。時間をとって会うのであれば有益な「商談をする」のがアメリカ流である。また、一般的に言ってアメリカ人はアポには厳しいが、その時間に行っても長く待たされるというようなことはよくある。
② 名刺交換
日本では、ビジネスのスタートは「まず名刺交換」から始まるが、アメリカでは名刺交換が増えてきたとは言え日本ほど厳密ではない。もっとカジュアルな雰囲気でスタートする。自己紹介、握手そして商談である。名刺を丁寧に両手で・・という習慣は無く、ただ渡すという感じである。放り投げる光景も時折見かける。
③ 商品の評価
アメリカのバイヤーに、商品のサンプルを見せると、「これはなんて素晴らしいのだ」「今までこんな商品は見たこともない」「グレート!」と、オーバーに感じるくらいの表現をする。このリアクションで「商談がうまく行くな」「相当気に入ってくれたな」と早合点してはならず、これはアメリカ特有のフレンドリーな「挨拶」である。展示会で、多くのバイヤーのほめ言葉を真に受けて、「当社の商品の評判は非常に良かった」などと受け止めてしまったら、商品戦略が間違った方向に行ってしまうかもしれない。アメリカでは注文が入ってこそ、「評価された」ということである。「注文なしのほめ言葉」は単なる「おせいじ」である。バイヤーが本当に気に入っているならば注文を入れる。逆に、日本人は気に入っても顔に出さないということがあり、アメリカでは「気に入らないのだな」と受け取られるかもしれない。ストレートに交渉するのがアメリカ的商談方法だ。
④ 価格
小売店に販売する卸価格(Wholesale Price)だけがメーカーによって設定されている。小売価格は店舗がそれぞれ独自に設定する。仕入れ価格の2倍から2.5倍で設定する店舗が多い。この結果、小売店によって小売価格が異なる。ただし、メーカー側から標準小売価格を提案することもある。それをMSRP (Manufacture Suggested Retail Price)=メーカー推奨価格という。
日本では、商品の価格をまず高めに言って、先方の反応を見ながら交渉に応じて下げていくという方法がとられることもある。アメリカでは、この方法はあまりやらない方がいい。価格を提示されたら、それをベースに相手は検討していく。高めの価格であったら、「それは私たちの店には高すぎるので仕入れません」と商談はスパッと終わってしまう。ただし、「商品の量で価格は交渉に応じます」というのは有効な商談方法ではある。大手チェーン店では、「当店では29ドルを小売価格(MSRP)に設定したいので、15ドルを13ドルにしてほしい」というようなディスカウントの交渉は良くおきる。一方、専門店からはあまりディスカウントの交渉はない。
⑤ 顧客の接待
アメリカでは、商品を卸す側が小売店バイヤーを接待するということは日常的に行われてはいない。接待したからたくさん買ってくれるということもないので、あまり考えないでよいだろう。「非常に親しくなったので、コンスタントに買ってくれるだろう」というような「長いお付き合い」的な要素もまずないと考えておいた方が無難である。いくらフレンドリーに付き合っていたとしても、商品が合わなくなれば「仕入れない」ということになる。小売店と商品を提供する企業(サプライヤー)との協力関係は日本よりも薄い。
一流大手チェーン店やデパートはバイヤーの接待は厳禁で、接待を受けた場合は退社させられるという会社もある。接待があっても、コーヒーとかランチとかが一般的である。「お付き合いで買う」というようなことはアメリカではまず起きない。逆に考えてみれば、常に商品さえ磨いていけばビジネスは継続するのであるから、ベタベタする必要もなく合理的でやりやすい。ギフトのチョコレートくらいは受け取ってくれる。
サプライヤーは常に新製品を提供しなければならないし、小売店は常に新製品を探さなくてはならない。それが、海外企業にとっては、「チャンス」の下地になっている。店舗にとっては、商品がよく流通システムが整っていれば、海外の企業でもアメリカの企業でもかまわないのである。つまり、消費者が満足してくれる商品を仕入れたいのである。
⑥ 取引条件
日本でよく行なわれる委託、消化という取引形態は、アメリカでも無いとは言えないが例外的で通常はあまりない。「買取」が普通の取引であるので、「買取でお願いしたい」というような話は商談に出てこない。バイヤーが、商品を一度仕入れたら、それは先方の所有になるということが常識である。したがって、「売れなかったので何とかして欲しい」などという甘えたことをいう店舗はめったにいない。仕入れた商品は仕入れた側の責任ということが基本的な姿勢であるので、傷物商品でさえ、返品する場合は、サプライヤーから返品承認番号(RA#)を発行してから行わないと、返送しても商品受け取りを拒絶されてしまう。こういう取引条件になると、バイヤーの真剣度は増し、かつ非常に慎重になる。
大手企業が強い姿勢で、返品要請ということは無いが、「今回売れなかった商品は、お互い協力してマークダウン(値下げ)して売ってしまいませんか?」などとソフトな要請は来ることは珍しくない。大手との取引には、それなりの厳しい条件が付く、または取引の中で要請されると思っておいたほうが良いだろう。
⑦ 信用調査
アメリカ社会では、個人においても、ビジネスにおいても「信用度」(Credit Rank)が非常に重要である。もちろんそれは日本でも同じであるが、アメリカでは、信用調査機関、金融機関の間で情報が細かく行きわたっている。したがって、信用度の低い(Bad Credit)人、店舗、会社は、商品を買ったり仕入れたりするのは難しくなる。その結果、優良な店舗、企業は信用度が落ちることのないように、常に迅速な支払いを心がけている。この信用ランクを調べるのは簡単なシステムになっている。
アメリカの展示会で、仮に100社からの注文をとり、信用調査を行うと、信用度Aランクになるのはそのうち約60%程度であろう。取引先がいくら名前の通った大手チェーン店でも、売上げが発生する都度、信用調査を行って回収を見極めてから商品を発送するというのがアメリカでは鉄則である。一度信用調査を行っても、次の年には会社の業績が悪くなって支払いが滞るということは充分ありえる。しかし、こういう状況でありながらも、「回収システム」が整備されているので、体制を整えさえすれば問題はほとんどおきない。信用を確認するということは、アメリカでは当たり前なので、それに反発されることは無い。
⑧ 代金の回収
個人が支払いをする時もそうだが、アメリカの国内取引において大手チェーン店が企業に支払いする時は、「小切手(Check)」を郵送するというのが一般的である。銀行振り込みは、振り込み手数料が高いのでほとんど使わない。販売先の会社、店舗の発行する小切手は、当座預金(Checking Account)に残高がないと、不渡り(Bounce)になることも起きるので注意が必要である。それは、単に口座の残高不足ということでも不渡りがおき、日本のように不渡り=倒産ということにはならない。会社、店舗の小切手で支払いを受けると回収不能になるリスクがあるので、銀行が保証する小切手(Certified Check)しか受け取らないという回収方法を行っている企業は少なくない。
多くの業種で裏付けなく信用売りという形はとらず、信用調査を行い、問題がなければNET30、NET60という決済方法をとる。(NET30とは、商品納品後、30日後に小切手を郵送するという支払い方法)
売掛金を保証してもらえるファクタリング(後述)というシステムも整っている。Cash on Delivery(COD)やクレジット・カード決済も多い。(詳細は後述)
2. 受注
ここでは、アメリカにおける専門店、オンラインストア、大手チェーン店を対象とした「注文のとり方」について説明していく。受注方法は、展示会受注と日常的な営業活動における受注である。
(1) 受注のプロセス
アメリカで受注をとる方法は、展示会、日常営業でバイヤーから受注を確保する。一般小売店からの受注は基本的に次のステップによって受注となる。大手チェーンからの受注プロセスはより時間がかかり、内容も異なる。
① 製品の説明
② 商談
③ 注文(Order)の決定
④ 注文書(PO)を書く
⑤ サイン(Signature)をもらう
⑥ 支払い方法(Term)を交渉する
⑦ 受注完了
(2) 展示会販売
① アメリカの展示会
アメリカでは、多くの商品カテゴリーにおいて「展示会販売」が活発である。市場が大きく、商品のサプライヤーが一都市に集中していないので、展示会を軸にして、製品サプライヤーとバイヤーが定期的に集まって商談する方が合理的である。展示会は商品カテゴリーによって色々な展示会が存在する。
専門店は、展示会の中で注文する。オンラインストア、大手チェーン店は、新しい取引先(Vender)を開拓する。
② 展示会出展
日本企業は、アメリカのメジャーな展示会に出展するのがよいだろう。出展の申し込みは、オンラインで行うことができるのでさほど複雑ではないが、展示会の雰囲気、ブースの作り方、プレゼンテーション、販売方法を学ぶ為に展示会視察は必要である。時間をかけて、入念な展示会準備をして体制を整えて出展すれば必ず結果はついてくるものである。展示会で営業的な軸を整えて、日常営業(次項)で成果を出していく。
(3) 日常営業
年に1-2回のアメリカ出展だけで、年間売り上げが確保できるということはアメリカ企業でもあり得ない。そこで、日常的に営業を積み重ねていき、成果を出していく。通常はNYエリアか、LAエリア、シカゴエリアにショールームを持ち、販売担当者やセールスレップが日常的にバイヤーにコンタクトして受注を確保する。展示会と日常営業を有効的に組み合わせて受注を増やしていくのである。かつては、セールスレップをコミッション制で雇用して、受注を拡大するということが一般的であったが、近年はバイヤーが商品知識、生産背景の分かった生産者の本社からの直接仕入れを希望するようになってきた。それでもアメリカではセールスレップの存在は大きい。
(4) 大手チェーン店の注文
① 大手チェーン店との取引
大手チェーン店のバイヤーは、展示会で新しい商品を見つけ、展示会後に色々な情報を得る中で体制を整えていく。再度ショールームなどでミーティングとなる場合やバイヤーのオフィスに行くことも多い。商談の中で、シッピング体制、カスタマー・サービス体制がどの程度充実しているか、経験があるかを聞いてくる。不安を感じた場合は、いかに商品を気に入ってくれていても商談は前に進まない。注文してシッピングのトラブルになる可能性のある会社からは絶対に仕入れない。バイヤーの失点になるからである。何千点、何万点という単位で注文する大手小売店は、発注の前にシッピング体制の厳しい審査がある。企業の中には、商品試験場(Lab)での商品テストを要求する企業もある。最近では商品の安全性をアピールする企業が増えているので、今後もそうした企業は増えていくだろう。いくつかのプロセスを得て、注文書がEDIシステムかEメールで送られてくる。
大手チェーン店でも、慎重に商品を仕入れる姿勢を持っている。初年度は、テスト販売として、全体の10-20%程度の店舗でテスト販売を行い、そのベンダーの流通能力、商品の回転率を見てから全店に広げていく。
② 大手チェーン店とのEDI取引
大手小売企業との取引には、EDIシステムという流通システムの導入が必要である。EDIによって、メジャー企業からの出荷指示(EDI 856)、PO送付(EDI 850)、インボイス発行(EDI 810)が電子データによって行われる。
③ 大手チェーン店との商談
・ プレゼンテーション
大手小売企業との商談のときには、バイヤーのチームだけでなく企画チーム、販促チームなどが一緒に商談室に入ってくることがある。その場合は、先方が10人以上になることもあり、セールス担当者は前の方に立ってレクチャーを行なうようにプレゼンテーションする。大手チェーン店との取引を実現する過程で最も重要なステップである。
・ プレゼンテーションのストーリー
プレゼンテーションには「ストーリー」が必要である。アメリカのセールス担当者たちはストーリー展開=プレゼンテーションの能力を小さい頃からしっかりと身につけている。その彼らと同じようにプレゼンテーションを行なうので相当な準備をしておかないとバイヤーへの説得力のあるプレゼンはできない。前もって、プレゼン資料の準備やプレゼンのリハーサルは十分すぎるほどやっておいた方がいい。
・ イメージ良く
商品数が多い場合は、営業アシスタントも一緒に同行して、商品説明する役、商品を整理する役割に分けて、全体をスマートにイメージ良く組み立てると良いだろう。
・ 説明のポイント
バイヤーは、ベンダーの会社の歴史や役員構成などはあまり関心がなく、商品と生産システム、流通システムに関する質問が多い。このミーティングで価格交渉はあまり行なわれず、価格の提案だけにとどまる。ラインシートとは別に、生産背景、納期、流通システム、在庫体制などの情報は、Memoとして文章化して準備しておくと説明のポイントが伝達しやすい。つまり、バイヤー・オフィスでのプレゼンテーションには、サンプル、ラインシート、ミーティング・メモ、その他資料が必要になる。
(5) 一般専門店の注文
① 展示会注文
一般専門店は数が多いので、展示会にて商談、受注を行うのが効率が良い。展示会でその場で発注する専門店は多い。回収方法は展示会で交渉しておく。展示会後にお礼状(Thank you Letter)を送ると丁寧なイメージになる。
② 追加注文
商品にもよるだろうが、アメリカの専門店はあまり頻繁に追加注文をしない傾向がある。アメリカの店舗は日本に比べて大きいので、在庫も多い。シーズン性の強い商品は「売れ残す」のを警戒して、定番的な商品以外の追加注文には消極的になる。営業展開の中で、商品が売れているとき、追加注文を勧めるよりも、まだ扱っていない他の商品を勧める方が効果的である。
③ 注文方法
展示会の時は注文書(PO)を書くが、Eメールや電話の注文もある。Eメールや電話注文のときは、注文書を書き、それを先方に送ってサインしてもらうようにする。
④ ノート(Note)
専門店の中には、仕入れの予算管理がしっかりしていて、注文したい内容をメモ(Note)していき、後日正式な発注をするという店も少なくはない。通常EメールやFaxで注文書(PO)が来る。展示会後には注文を促すためにEメールを送る、電話をするなどプッシュの営業を行う。商品のわかりやすい写真がほしい、商品全体のラインシートがほしい、サンプルを再度見たいなど依頼される場合も多い。Noteのバイヤーに対しては、「*月*日が注文の締切日(Cut Date)です」ということをしっかり伝えるほうが注文は促進される。あまり先にせずに、展示会後1-2週間にするのがコツである。
⑤ オーバーラッピング(Overlapping)
商品にもよるが、「自分の営業エリアのほかの店には売らないで欲しい」というリクエストはよくある。日本では、「バッティングする」という表現を使うが、それでは通じない。アメリカでは「オーバーラッピングする」という表現になる。普通は、その管理を、郵便番号(Zip Code)で行なうことが出来るが、それも曖昧ではある。ちがうZipでも近接するということがありえる。やはり、展示会後にインターネットの地図で調査して、オーバーラッピングしないように取引先管理をするとよいだろう。
(6) 納期(Delivery Date)
通常、納期は販売する側が「このアイテムは、3月末になります」というように、納期を指定する。店舗が納期を指定することもよくある。「これらのグループは、8月末に、それ以外は、9月末に納品してください」というように。納期の呼び方は、3月末日の場合、3/30(スリーサーティ)と呼ぶ。1週間程度の納期遅れならば、許容範囲であろうが、あらかじめ絶対的納期(Cancel Date)を決める小売店も多い。納期を過ぎてしまうと、ディスカウントを求められるケースもある。その場合は、「どうして遅れたか」の説明をきちんとして3%程度から交渉を進める。「船の遅れ」「通関上のトラブル」など避けられない理由があれば、早め早めに連絡しておくとよいだろう。
(7) 受注に必要なツール
アメリカ市場で商品の注文をとる時にはいくつかの必要な営業ツールがある。それは、バイヤーが大手チェーン店でも専門店でも変わらない。
① ラインンシート(Line Sheet)
商品一覧表のことで、商品の品番、写真、価格、素材、納期、色、サイズなどの商品情報が全て分かるリストである。通常、ブースの中で、商品を気に入ったバイヤーは、「ラインシートありますか?」とリクエストをしてくる。ラインシートにメモしながら、注文内容を検討するのである。「展示会必需品」の一つである。商品の写真が入ってると大変分かりやすい。ラインシートの作るポイントは、「見やすさ」である。あまり重要でも無い情報を詰め込みすぎると、表は見にくくなる。写真を入れると、大変使いやすくなる。バイヤーがメモする欄があると便利である。ラインシートの製作日やページは必ず入れる。今後、ラインシートは改定したり、価格変更になったりすることがあるので、製作日があると見分けつけやすい。展示会においてラインシートは100-200セットくらいは必要。
② カタログ
商品の特徴、生産方法のこだわり、簡単な会社案内などを掲載したイメージの良いカタログである。カタログ製作は常に一貫したデザインポリシーで作る。日本でよく見る豪華な「会社案内」は、アメリカではあまり必要とされない。アメリカ進出初年度の段階では、製品も固まっていないことから、あまり重厚なカタログは必要なく、むしろ1枚の説明書(フライヤー)で充分である。展示会にもよるが、300-600枚くらい用意するといいだろう。
③ PO (Purchase Order)
受注書のことで、商談の中では「ピーオー」と呼ぶ。品番、色、サイズ、単価、合計欄、納期、サインの欄を設ける。注文の明細は全てこのPOに記入する。アメリカでは通常、3枚複写になっていて、1枚(本製品)を自社保管、1枚(コピー)を販売エージェントやレップが保管、1枚(コピー)を顧客に渡す。バイヤーのサインは注文の証なので必ず貰う。POには、「キャンセルはできません」「商品に瑕疵があった場合」の処理方法などについての簡単な契約内容を入れておくのが普通である。その内容は、アメリカの弁護士に文章を確認してもらうと良い。
資料POの項目および記入内容は次の通りである。
・ 顧客名と住所・・・Bill Toは請求先の住所、Ship Toは納品先の住所を書く
・ Email Address・・・連絡はEメールが多いため必要である。
・ 電話番号、Fax番号
・ バイヤー名・・・バイヤーには頻繁に連絡をとるため重要。
・ Delivery Date・・・お店にとって必要な納期を書くか、商品の準備が出来る時期を記入する。
・ Completion・・・商品の納品が完全に終わる時期を記入する。Cancel Dateとする場合もある。
・ Term・・・支払条件で、普通NET30、CODなどと記入する。
・ Via・・・普通はUPSトラック便なのでUPSと記入する。航空便希望の場合はその旨を記入。
・ Style#・・・商品の品番を記入する。
・ Description・・・商品の明細を記入する。
・ Color, Color#・・・商品に色やサイズがある場合はその旨記入する。
・ 取引条件の文章・・・「この注文は承認なしにキャンセルできません」などという文言を入れる。
・ Signature・・・バイヤーのサインと日付を記入する。
④ 名刺 (Business Card)
展示会では、多くのバイヤーや業界関係者がブースから名刺を持っていく。普通の名刺では忘れられてしまうので、印象が残りやすいよう「商品の写真」を載せた名刺が効果的である。展示会用の名刺には、ブース番号を手書きしておくのも良い方法である。(印刷してしまうと次回使えなくなる)ブース番号があれば、バイヤーはもう一度ブースに戻って来やすくなる。日本の名刺はアメリカの名刺よりもサイズが大きく、アメリカの名刺ホルダーには入らない。アメリカの名刺サイズは、5cm x 9cm。個人の名刺も必要だが、個人名が無いブランドの名刺も作ると良い。
⑤ リアクションメモ
ブースには、様々な人が訪れる。バイヤーも千差万別である。バイヤーの名刺だけを保管しても、後から見ても誰が誰かわからなくなる。重要度も分からなくなる。そこで、「リアクションメモ」を用意して、バイヤーらと話したことは全てその用紙に記録しておき、もらった名刺はそれに留めておく。ビジネスの可能性の高中低も書いておくと、展示会後のアプローチの優先順位の目安になる。いわば、展示会の成果はこのリアクションメモの枚数=商談件数になる。特に、大手チェーン店との商談内容は細かく書いておくべきである。
3. 流通・納品
(1) 通関と関税
海外からの商品は、税関(Custom)を通って関税(Custom Duty)が課される。必要な書類や、指定されている商品の表示が適正であれば、通関がスムースに行われるので、貨物到着後3-4日で通関を終える。ひとたび、問題が発生すると解決するまで荷物は保税倉庫におかれたままになる。必要な書類と商品の表示規定について、前もって運送会社と相談をして綿密な対策が必要である。それは、年々変わっていくこともあるので、常に確認が必要である。
関税率については、そのタリフ(関税率表)が多岐にわたっている。アメリカ税関の関税率のタリフがウェブサイトで参照できるが、商品の素材、サイズ、用途などによって細かく規定されているが非常にわかりにくい。大手運送会社に問い合わせればおおよその情報は手に入る。アメリカの関税に関するウェブサイトは下記の通り。
United State International Trade Commission
(2) 流通方法の概要
① 納期
小売店から注文が入り、商品の発送が可能になった場合は、小売店からの納期指定日に合わせて納品の準備をする。PO(受注書)にASAPと記載されていれば「出来るだけ早く納品する」、AS READYと書いてあれば商品が日本から届いて準備が出来次第納品という意味である。普通は、展示会などで、売る側が可能な納期を伝えて、店舗が了承すればそれが納期になる。In Storeとして、店に入る期日を指定される時もある。一般的には、1-2週間の納期遅れは認められる。ただし、大手チェーン店は、Cancel Dateが指定しており、その日を過ぎたら自動的にキャンセルになる。日本からの荷物が遅れる時や通関に時間がかかる時もあるので、納期を指定し、Completion(納品完了日)を30日ほどプラスしておくと安心である。
大手チェーン店の期日指定は、下記の通りである。
PO Date: 注文書を送られた期日
Cancel After Date: この日を過ぎたらキャンセルという期日
Date Expected to Ship:ウェアハウスを出荷する期日
Date Shipment:納品期日
② 納品方法
商品の米国内流通は、通常UPS(運送会社)による陸送運送(Ground Service)で行う。送料は小売店が負担するために普通小売店は一番安い陸送を選択する。通常、多くの企業はUPS社の配送システムによって商品を送る。UPS社は、全米に配送ルートを持つ最大規模の運送会社。現金交換取引(COD)の場合は集金業務も行う。航空便もあるが費用はトラック便の5倍ほどになる。郵便で送ることも出来るが、先方に着いたかどうかのトラッキング(追跡調査)ができない為にあまり使われない。
大手チェーン店の納品方法は、基本的に下記の通りである。
・指定トラック業者のピックアップ (トラックロード、混載)
・小口はUPS、FEDEXで送る。
③ UPS陸送
UPS社の陸送サービスは、オンラインで配送管理を行っているので、あらかじめ契約する必要がある。UPS社に口座を作り、UPSのソフトをインストールする。顧客の情報、荷物の重量、箱のサイズを入力して、コンピューターのプリンターで印刷されたラベルを荷物に貼る。運送料金もその時に算出される。航空便には、翌日配達便、2日後配達便がある。一番安価なグラウンド・サービス(陸送)を使うと、LA-NY間で5日かかる。通常は、このグラウンド・サービス(陸送)で行なわれる。発送の折に、インボイス(Invoice)=納品伝票(請求書)を商品とともに箱の中に入れる。送料は、小売店負担が普通である。送料をUPSオンラインで計算して、インボイスに加えて請求する。
UPS社:1-800-742-5877
国内運賃は基本的に買う側が負担するが、大手チェーン店などは売り側に送料を負担させることもある。(Prepaid条件)販売コストに大きく影響するため、商談の時にあらかじめきちんと確認が必要である。
(3) 通常の発送方法
次の段取りで商品を発送する。
① 注文の商品を揃える。(Picking)
② ダンボールに梱包する。(Packing)
③ 重量を測り(単位:パウンド)、箱のサイズを計測する。(たてxよこx高さ:インチ)
④ 送料をUPSのウェブサイトで確認する。保険も必ず付保する。(UPS社の補償金額上限$100のみ)
⑤ 商品代金と共に送料を載せてインボイスを作成する。
⑥ インボイス+商品をUPSで発送する。
大手チェーン店の場合は、上記のほかに、各製品につくUPCラベル,シッピングラベルの UCC-128Labelをつけたり、EDI処理が必要になる。普通は、ダンボールを積み上げたパレット納品(40”x48”Palette Shipment)になる
(4) 納品書(Invoice)
日本の場合は納品の都度、納品書を発行し、月末などに1か月分をまとめて請求する「締め支払い」システムであるが、アメリカでは、通常、インボイスを発送のたびに発行する。1か月分をまとめて請求せずに、個別インボイスを出し、それが請求書となる。したがって、月に二度、三度支払いが発生するということもある。納品書(Invoice)は、納品の時に箱に入れるか、箱の外に袋に入れて貼付する。
大手チェーン店へのインボイスはEDIを通して行なわれる。(EDI 810)
(5) ウェアハウス・ビジネス
① ウェアハウス企業の役割
商品の発送先が専門店で、納品量が多くない時は自社でも可能であるが、取引先がチェーン店の場合や大量の商品を配送するためには、ウェアハウス(倉庫)・ビジネスを行なっているウェアハウス企業に流通業務を委託することも可能である。自社でウェアハウスを持つことは費用もスタッフも必要になることから、ウェアハウス企業を利用している会社は多い。日本からの商品はそこで保管され、注文の都度必要な商品がセットされ箱詰めされて、UPS社のトラックで全米各地に配送される。数日間で1000店への梱包、発送も可能になる。ウェアハウス企業は、流通体制を持たない日本企業にとっては、重要なパートナーになる。
② ウェアハウス企業の選択
アメリカのビジネスが小さいうちは、必要ないであろうが、ある程度大きくなってきたり、大手企業との取引を計画する時には、EDIの経験豊富なウェアハウス企業との提携が必要になってくる。むしろ、ウェアハウス会社と組んで行なわなければ大手小売企業との取引は難しい。
大切なのは、信用度のある実績の高い会社を選ぶことである。納品を頻繁に間違えたりしては、大手企業からはすぐに切られてしまう。また、大切な商品を預かってもらうので、設備の良さも重要である。したがって、ポイントは、信用度が高く費用がリーズナブルで、設備の良いウェアハウス企業を選ぶということになる。時折ウェアハウスに行くことも出てくるので、都心からのアクセスが容易な会社を選ぶと便利である。また、送料を負担する顧客のロケーションを考えて、ウェアハウスの位置を考えることも大切である。全米均等に配送するのであれば、シカゴなどアメリカ中央部が相応しいし、西部が多ければカリフォルニア州、東海岸が多ければニュージャージー州ということになる。
③ ウェアハウス委託費用
ウェアハウス会社からの主な請求は、下記の通りである。
・ コンテナからの積み下ろし費用(Devanning Charge)
・ 保管料(Storage Charge)
・ 入庫料(Warehouse In)
・ シッピング費用(Warehouse Out)
・ 出荷手数料(Refowarding Charge)
・ ラベル手数料(Shipping Label)
4. 代金の回収
アメリカ市場で代金の回収体制を完璧に整えておくことは非常に重要である。回収リスクは出来るだけミニマムにして、代金回収に時間をかけずに市場開拓のほうにかけたいものである。回収方法にはいくつかあるが、受注以降の信用調査、回収方法をここで説明する。
(1) 受注 (Order)
展示会や個別営業で獲得した注文書(PO)をまとめる。展示会で、注文を受けた場合には、その場で支払方法について基本的な話し合いを行い、書面にサインをしてもらう。一般的な方法は、「お支払はどういう方法にいたしますか?」という質問を行い、先方が、クレジット・カード支払い、COD支払い、NET30決済のいずれかを希望する。それらに対する受け入れ体制をあらかじめ準備しておかねばならないのである。何の根拠もなく、「うちの製品を本当に気に入ってくれたから」「良さそうな人だった」というような理由で「信用売り」をするのは危険である。アメリカ市場で、保証無しの信用売りをするということはまず無いと思っていたほうがいい。
* NET30・・・納品後、30日以内に代金を支払う。
(2) 信用調査 (Credit Check)
① ファクターによる信用調査
アメリカの取引先の信用度(Credit Rankクレジット・ランク)を調査しなければならないが、日本企業にとっては下記に説明するファクター(Factor)の存在が有効である。ファクターは、注文した店舗の信用度を調べて、売掛金を保証する金融機関である。ファクターの信用調査によって、信用度が高いと分かった店舗からの受注は問題ないが、ファクターでも信用度が不明、または信用度が低いと判断された店舗の注文は十分な対策が必要である。ファクターは、ビジネスが継続的に行われる場合は大変有効である。ファクターの仕組みは後述する「ファクタリングの仕組み」にて説明する。
② 信用調査会社
企業の信用調査を行う場合は、信用調査企業で調査を依頼したほうがよいだろう。定期契約が必要だが、1件当たりの簡単なレポート(2ページ)は、20-30ドル程度である。Dun & Brad Street 社(ダン・アンド・ブラッド・ストリート)が良く知られている。同社のサービスを使う場合は、契約して会員になる必要がある。
ただし、同社によって信用調査をした場合、「信用ランクが低い会社」と、「信用ランクが高い会社」は明確な評価であらわれるが、実際はその中間の会社が多く、結果はグレイで判断がつかない場合も多い。
③ クレジット・リファランス(Credit Reference)
アメリカでは、同業者(他の競合企業)に顧客の信用度を問い合わせることもよく行われている。これは費用がかからず、かつ正確な方法ではある。顧客は、受注時に「主要取引先リスト」(Reference)を、提出してもらう。そのリストから1-2社を選んで、顧客の信用度を照会する。経費は掛からないが手間と時間はかかる。「このお店との取引はいかがですか?問題はありませんでしたか?」というような手紙を送るのである。返事は7割ほど返ってくる。反面、他の同業者から質問が来ることもある。
(3) 回収方法
代金の回収方法には色々な方法があるだろうが、ここでは一般的な方法を説明する。
① ファクタリング(Factoring)
日本企業がアメリカ市場で販売を拡大する場合には、最も強い味方になる信用調査・回収保証機関である。ファクタリング(Factoring)のシステムの詳細は次項で説明する。費用は、納品金額の2-3%である。ただし、アメリカ法人でなければ契約ができないため、現地法人があるか、現地のエージェントを通さねばならない。その契約は、年間契約をしなければならず、注文がある時だけというわけにはいかないし、全ての注文をファクタリング会社に申請しなければならない。リスキーな注文だけを保証してもらうということはできない。
② ネット30支払い(NET 30 Payment)
信用調査をした結果、クレジットランクが高い取引先は、NET30(納品後30日に支払うという取引条件)が多い。30日間の信用取引である。大手小売店などでNET60ということもある。納品から30日後に店舗から小切手が送られてくる。小切手は、アメリカ国内の銀行口座に入金して現金化する。ただし、アメリカに法人登録が無いと銀行に口座を持つことは出来ないので、提携エージェントの口座を利用することになる。アメリカでは銀行振り込みということはまずない。この条件は、信用度の高い取引先のみに適用する。
③ クレジット・カード決済 (Credit Card Payment)
クレジットカードを使う回収もアメリカでは一般的である。メジャーのクレジット・カード会社(VISA,MASTER,AMERICAN EXPRESS)と契約してカード決済を行う。これも安全な方法である。ただし、口座に残高が少なくてカードの金額が落ちない、支払い限度に達しているために落ちない(Decline)ということも起こりうる。クレジット・カードの口座を設けるには、アメリカに登録された企業でなければできないので現地法人か提携エージェントが必要になる。
④ COD現金交換決済(Cash On Delivery Payment)
COD取引もアメリカでは一般的な回収方法である。UPSなどの運送会社が商品を配達した折に、小切手と引き換えに荷物を渡すというものである。ただし、会社小切手(Company Check)が、バウンス(Bounce不渡り)することもあるので、銀行保証小切手(Certified Check)によるCOD取引が安全である。しかし、店舗側が銀行保証小切手を作成する費用と時間がかかることから嫌がる場合が多い。アメリカでは、不渡りと言っても日本のように倒産とはならず、単に当座残高が不足して小切手が有効にならないことが起きる。
⑤ 先払い(Prepaid)
納品準備ができたら、店舗に連絡して会社小切手を送ってもらい、現金化できた時点で納品する方式である。この方法は100%安全である。しかし、小切手の郵送、現金化(約1-2週間)に時間がかかるので、納品まで時間がかかる欠点がある。
主に、この4つの方法が一般的である。アメリカの店舗が、注文時に日本の銀行口座に送金で先払いするというのは難しい。売掛金が万が一焦げ付いた時は、それを回収してくれるコレクション・エージェンシーという会社も存在する。
* コレクション・エージェンシー( Collection Agency)
商品が納品されたが、何らかのことで売掛金回収が不可能になった場合は、コレクション・エージェンシー(売掛金回収会社)に回収を依頼することができる。通常、売掛金の20-25%が手数料となる。この費用は成功報酬なので、回収できなかった場合は発生しない。焦げ付いた売掛金回収には効果的である。
大手チェーン店からの回収は、NET30かNET60が多い。この場合も、ファクタリングによる回収が相応しい
(4) ファクタリングの仕組み
信用調査の方法は、信用調査会社のデーターを購入することも可能だが、信用調査レポートを見ても、グレイな内容が多く判断が中々難しい。日本企業にとって効率的で簡単なのは、ファクタリング会社による信用調査と回収である。ファクタリング会社はファクターとも呼ばれ、全米のあらゆるカテゴリーの小売店情報を持っている。ファクタリングの仕組みは次のようなものである。
① ファクタリングのシステム
・ ファクタリング企業と契約する。
・ 受注内容をファクタリング会社に提出する。(オンラインを使う)
・ ファクタリング会社は膨大なデーターを使ってその小売店の信用状況を評価する。
・ 評価が高いければ、その受注の保証を受け付ける=Approval(承認)
・ 信用評価が低い場合、ファクターはその受注の保証を拒否する=Reject(拒絶)
・ 新しい店舗で、信用実績が蓄積していない場合もReject(拒絶)である。
・ Approval(承認)を出した受注については、ファクターが保証する。
・ Reject(拒絶)した受注は、ファクターの保証無しに引き受けることもできるし、小売店には、「ファクターが承認してくれないのでCOD決済かクレジットカード決済をお願いしたい」と交渉する。
・ Reject(拒絶)された店舗が、ファクターと交渉して承認に変えることもありえる。
② ファクタリングのメリット
・ 信用ランクの高い店舗の承認Approvalはすぐに出るので、取引が迅速になる。
・ 信用調査会社に信用照会する必要がなくなる。
・ 小売店はファクタリング会社を介している請求を優先的に支払う傾向にある。
・ Reject拒絶した小売店には、「ファクタリング会社がRejectしたので取引条件を変更する」と交渉しやすくなる。
・ 費用は2-3%なので経済的であり、そのレートはクレジットカード回収とほぼ同じである。
③ ファクタリング会社との契約
自社で信用チェックを行うことはかなり手間がかかることから、ファクタリングを採用する方が日本企業にとっては便利である。ただし、ファクタリング会社と「年間契約」しなければならず、契約するには「アメリカ法人」であることが条件である。
ファクタリング会社からの入金は毎週銀行振り込みによって行われるのでアメリカの銀行口座が必要である。アメリカでは銀行口座を設けるにも、やはりアメリカ法人でなければ作れない。したがって、日本企業は、適正な回収体制を作るには現地法人を設立するか、アメリカ国内にエージェントが必要になる。契約内容やシステムの内容はファクターによって異なる。
④ ファクターからの入金とその明細
店舗は、支払期日にファクターへ小切手を送る。ファクターは、コミッションを差し引いて、毎週一度銀行振り込み、あるいは小切手を送ってくる。同時に取引の明細書が送られてくる。
⑤ ファクタリング費用
ファクターによって色々だが、取扱額の2-3%くらいである。信用調査で、Reject拒絶された場合のコミッションの請求はない。
⑥ 最低取引金額
ファクターによっては、年間の最低取引金額を設定しているところもある。年間コンスタントに売り上げがない場合や売上げが小さい場合は負担が大きい。月間の最低取引金額の条件がないファクターを選択したほうが良い。あまり小さいファクターの場合は、信用調査の情報が少ない場合もあるので、ファクターの選択には注意すべきである。CITなど大手ファクターかその子会社や提携会社が情報量が多く持っているのて有効である。
⑦ ファクター選択のポイント
・ 情報量が多いこと
・ 月間最低取引金額はないこと
・ コミッションが適正であること
・ 問い合わせが多くなるので、カスタマーサービス体制が整っていること
・ コレクション・エージェンシー社も持っている(提携している)会社ならばより便利である
・ ファクターによっては、年間売り上げが小さいとメリットがないということで取引を申し込んでも断ってくることもある。その場合は、大手ファクターと提携している小規模のファクターを探す。
(5) 代金回収のポイント
① スムースな流通
アメリカ市場は広大なので、取引先(顧客)が何百何千になることは十分ありえる。その場合、信用調査と取引条件決定がスムーズに流れていかないと、流通に支障が出てくる。ある程度の規模の会社は、Credit Department(信用調査部)を部として備えているくらいである。そのために、ファクターとの取引は、日本企業にとって貴重な存在である。ただし、ファクターは全ての売掛金を保証するものではなく、信用調査をパスした(承認された)取引先の売掛金を保証するのみである。
そこで、問題はファクターの承認Approvalから漏れた取引をどうするかである。クレジット・ランクが著しく低い取引先や訴訟を抱えている会社の取引は断ればそれでよいが、歴史が浅くてファクターのアプルーブ(承認)が取れない取引先も少なくない。その場合には、クレジット・カード決済、銀行保証の小切手によるCOD決済との組み合わせによる回収体制を組んでおくと良いだろう。
② 決済方法決定の流れ
決済方法はいくつかの選択があるが、信用状況の審査をしてみないとどういう方向に行くかは分からない。信用調査をしてその結果、再度交渉をするというのも煩雑であるので、企業によっては次の方法をとっている。
・ バイヤーは注文する=POにサインする。
・ 支払方法の希望をバイヤーに尋ねる。
・ その希望に沿うことが出来るかどうか審査を経ないと分からないので、二番目の方法も決めておくようにする。
・ 審査の結果、そのどちらかの方法をとる。
・ 理想的な回収方法は、第一の回収方法としてファクタリングによる回収、2番目の方法としてクレジットカード回収か銀行保証小切手によるCODである。
③ 組織の準備
受注、回収と流通をスムースに行うためには、アメリカに現地法人を作るかエージェントを作る必要はある。言葉を変えると、それら無しにはアメリカでのビジネスは難しい。
5. カスタマー・サービス
アメリカ市場では、日本以上にカスタマー・サービスの役割が重視されている。カスターマーサービスは次のような業務を担う。
(1) 店舗からの商品問い合わせ
バイヤーから追加注文のための在庫状況の問い合わせや小売店販売員から商品についての質問が来る。
(2) 消費者からの商品問い合わせ・クレーム
一般の商品を購入した消費者から、商品の使い方や問題があったときのクレームの連絡が来る。
(3) 企業の対策
① 無料電話
1-800の無料電話を用意する企業が多い。大手チェーン店、デパートと取引する場合は、この点は重要視される。消費者から連絡が多い企業は、自動応答システムを備えているところもある。
② 消費者専用ウェブサイト
アメリカ企業は電話による消費者からの問い合わせを減らそうと、商品パッケージに問い合わせ専用のウェブサイトを記載している企業も増えている。消費者はウェブサイトを開いて、「よくある質問」(Frequent Questions)を見れば大抵の質問の答えが見つけられるようになっている。商品のクレームも質問もそのウェブサイトからできる。
6. 営業フォロー
(1) アメリカ企業の営業フォロー
日本では営業フォローは非常に細かく行なわれているが、アメリカの企業は、大手チェーン店以外には日本企業ほど営業フォローは行っていないのが現実である。営業フォローを行う企業は、通常、電話やEメールで行い、店舗に行くということは少ない。ただし、食品業界、細かい雑貨などの場合は店舗の在庫商品をチェックする必要があるため、「サービス・レップ」(Service Rep)を雇って店舗へ派遣して、営業フォローする場合もある。
日本的な緻密な営業フォローは、専門店にも大手チェーン店にも評判がいい。日本企業はその得意技を生かしてアメリカ市場に食い込んでいくのもよい方法である。
(2) ニュースレターの活用
アメリカの企業は、顧客が多いために、ニュースレター(News Letter)によって商品の情報、展示会のお知らせなどを通知する。この方法を郵便で送るのではなく、効率的にEメールで送るようにしている企業が増えてきている。気の利いた工夫されたニュースレターを送るというのはかなり効果的である。